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最高裁判所第一小法廷 昭和62年(行ツ)63号 判決

千葉県佐倉市下根二一九番地

上告人

鈴木冨美子

右訴訟代理人弁護士

佐藤公輝

千葉県成田市花崎町八一二番地

被上告人

成田税務署長

小笠原久三

右指定代理人

植田和男

右当事者間の東京高等裁判所昭和五九年(行コ)第六〇号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和六二年三月一〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤公輝の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実を前提にし若しくは独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巌)

(昭和六二年行ツ)第六三号 上告人 鈴木冨美子)

上告代理人佐藤公輝の上告理由

原判決には、理由不備、及び審理不尽の違法並びに判決に影響を及ぼすべき法令の解釈の誤りがあり、破棄されるべきである。

第一 無申告加算税の賦課決定について

一 原判決は、上告人が本件確定申告書の提出を法定の期限を徒過してなしたものであり、これにつき正当事由も認められないとする。

二 たしかに、申告書の提出は依頼した税理士の手違いで遅延したようである。

しかしながら、上告人は、右確定申告書の提出期限である昭和四九年三月一五日には、税理士の指示により、三井銀行佐倉支店から成田税務署長宛、所定の税額を納付書を用いて振込み納付しているのである。

三 無申告加算税の制度の趣旨は納税義務についての認識が薄弱にして怠慢なる納税者に対し、加算税という一種の罰則を加えることにより徴税の実を上げようとするものである。

右の趣旨からすれば、本件の如く、税金の納付自体は期限内になされており、実質的に納税の義務を果たしているものについては期限内に申告があったものとみなすべきであり、無申告加算税を賦課すべきではない。仮に期限後申告であるとしても、本件ついて申告遅延につき正当な理由ありとされるべきである。

四 よって本件無申告加算税の賦課決定を是認した原判決には国税通則法第六六条の解釈に重大な誤りがある。

第二 譲渡費用について

一 上告人は本件土地売買契約の違約金(買戻し代金)として晴共産業に対して二七〇〇万円を支払っているものであり、右違約金相当額は譲渡費用として認められるべきものである。

二 第一審証人吉田利幸の証言等をそのまま信用すれば、右上告人と晴共産業との間の売買は、架空のものであるということになる。第一審での上告人敗訴は同人の証書が決定的ポイントとなっている。しかし、同証人はその後、右証言を覆し、真実売買があり違約金二七〇〇万円を受領したと陳述している。(甲第一六号証)原審は同人の右陳述書を取調べてはおるもののこれを無視し、何ら吟味することがなかったものと思われる。同人の供述のいずれが真実であるかを判断するには本来同人を再度証人として取調べ、供述を覆すに至った事情等を検討することが必要であったはずである。しかるに原審は上告人よりの吉田証人の取調申請を却下してしまったので、右は不能となってしまった。

三 上告人は現実に晴共産業に対して二七〇〇万円の違約金を支払っている。そして、右二七〇〇万円の金員は晴共産業の口座から引き出され、鈴木正一と吉田利幸が使用しているものと思われる。上告人は、当然のことながら、その使途については全く関知していないのである。

四 右のとおり、本件については吉田利幸の供述が判決を左右する重大な証拠となるものであり、同人の前供述を覆す陳述書が提出されているのであるから、原審においては同人を再度取調べるべきであったにも拘らず、同人についての証人申請を却下した原審には審理不尽の違法がある。

五 実質課税の原則、すなわち実質的に所得があった者に対する課税、が税法上の大原則であり、所得税法第一二条にも右原則が明文化されている。

上告人が晴共産業に支払った二七〇〇万円の違約金は実質的には鈴木正一と吉田利幸が所得したものである。仮に上告人と晴共産業との間の本件売買契約及びその解除が架空のものであるとしても、上告人は真実違約金の支払義務があるものと信じて二七〇〇万円を晴共産業に支払ったものである。鈴木正一と吉田利幸は、当初から右金員は上告人の所得とならぬように仕組み、これを実行して不動産売却代金の内二七〇〇万円を所得したものである。

すなわち、本件不動産の売却代金一億三百六万五千円の内二七〇〇万円の実質的な所得者は鈴木正一及び吉田利幸であるから同人らに課税されるべきである。

したがって、本件違約金相当額である二七〇〇万円について、上告人の所得として課税した被上告人の処分を正当とした原判決は、前記所得税法第一二条ないしは所得税法上の実質課税の大原則に違背するものである。

第三 重加算税の賦課について

一 前期のとおり、上告人は本件不動産の譲渡については何らの仮装行為も行っていないのである。仮に前記晴共産業との間の本件不動産売買契約及びその買戻しが架空のものであるとしても、上告人はこれに加担しているものではない。上告人が「仮装行為」に加担したとする証拠は全く存在しないのである。右の取引が架空のものであるとすれば、むしろ上告人は鈴木正一及び吉田利幸に二七〇〇万円という大金を詐取された被害者ということになる。

二 原判決(第一審判決理由をそのまま引用)は、右の点につき単に「被告所部係官に対する原告の応答状況等に照らすと原告も正一の右仮装行為に関与していたもの」と推認しているのみである。仮装行為に対する重加算税は三六パーセントという著しく高率の重税である。

したがって、右の賦課決定の適否については殊便慎重に判断されるべきものである。

しかるに原審は、単に原告の「応答状況等」のみから上告人の加担を推認してしまっている。右は原審が、上告人に対する被上告人の予断をそのまま心証として形成してしまっているため、明らかな証拠の無いまま安易に判断したものである。

したがって、右仮装行為加担の認定については原判決に理由不備の違法ありと言わざるを得ない。

以上

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